「家で自主練もしているのに速くならない…」
「スクールに通っているのに、なぜか他の子に勝てない」
そんな声は、実はとても多く寄せられます。
ジュニア期の走力アップは、小学生・中学生の成長にとって大きなテーマです。しかし、ただ走るだけ・ただ本数をこなすだけでは、なかなか結果に結びつきません。特に他のスポーツ(野球・サッカー・バスケなど)を頑張っている子ほど、走り方の“癖”や“無意識の動き”によって伸び悩むことも多くあります。
ティラノダッシュでは、ただ「いっぱい走る」のではなく、走るための身体づくり・動きづくり・感覚づくりを大切にしています。そのなかでも特に重要なのが「ウォーミングアップの質」です。多くの保護者の方が見落としがちですが、走力アップの成否は、練習の最初の10〜15分でほぼ決まるといっても言い過ぎではありません。
さらに言うと、他のスポーツの練習だけでは「足を大きく・高く上げる動き」をする機会がかなり少ないのが現実です。だからこそ、かけっこ教室では意識的に足を高く上げる習慣をつくり、「強い反発を感じられる動き」を身につける必要があります。低い足の高さで練習していると、本番ではその高さか、それ以下にしか足が上がりません。練習でオーバーに高く上げるからこそ、本番で“ちょうどいい高さ”になってくるのです。
今回のブログの内容
・なぜ伸び悩みが起きるのか
・走力アップの土台になる考え方
・ティラノドリルがなぜ重要なのか
ティラノダッシュでは、走力アップに必要な要素を、次の4つに分けて考えています。
1. スタート(加速)
2. 走り方(フォーム改善)
3. ジャンプ(弾む力・反発力)
4. 障害物(接地タイミング・関節ロック)
これは単なるメニューのバリエーションではなく、「速く走る動作」を分解したときに必要になる、本質的な身体能力の分類です。
特に③ジャンプと④障害物は、「遊びっぽく見える」「ちょっとしたサブメニューに見える」と思われがちですが、実は一番“走力の根っこ”を作っています。ジャンプ系の動きでは、地面からの反発をもらう感覚を育て、膝を固めて強く弾む力を鍛えます。障害物系の動きでは、足をどの位置まで上げるか、どのタイミングで接地するか、といった“走るリズム・足の高さ・軌道”をコントロールしていきます。
ここで大事になってくるのが、足を「高く上げる」という意識です。
多くのスポーツでは、素早く小さくステップすることはあっても、「太ももをしっかり高く上げて走る」動きはそこまで多くありません。だからこそ、あえてオーバーに足を高く上げておくことで、地面からの反発を強く感じられるようになります。低い足の高さでしか練習していないと、本番の走りでも足は低いままです。練習でオーバーに高く上げるからこそ、本番ではちょうど良い高さ・ちょうど良いダイナミックさになります。
ティラノダッシュでは、この③ジャンプ・④障害物で作った感覚や動きを、①スタート・②フォームの中で「実際に走る動作」として発揮できるようつなげています。
レッスンは、大きく次の3ステップで組み立てています。
1. ウォーミングアップ・下半身強化・ティラノドリル
2. 技術練習(フォーム改善)
3. 技術を活かした実走
この中で、最も“伸びしろ”があるのが、実は①のウォーミングアップとティラノドリルです。
子どもたちは、どうしても「いっぱい走る」「タイムを測る」ほうが楽しく感じるので、アップを「軽く流す時間」と捉えがちです。しかし、速くなる子ほど、このアップの時間をものすごく大事にしています。コーチの実感としても、伸びる子は例外なく「ティラノドリルがうまい」です。
ティラノドリルのポイントは、
・オーバーに動くこと
・動きを“誇張して”行うこと
です。
小さく・無難に・無難な範囲でしか動かないと、身体は今まで通りの動きしか覚えません。逆に、わざと大きく、少しやりすぎなくらいオーバーに動くからこそ、
「こうするとバランスが崩れるんだな」
「この角度だとちょうどいいな」
という“失敗と成功の幅”が生まれます。
オーバーに動くことで、初めて「今より一段上の新しい動き」が手に入ります。もちろん、そこには失敗もつきものです。でも、この失敗を知らないままでは、どこをどう修正すれば良いのかが分かりません。結果として、現状維持のままになってしまいます。
だからティラノドリルの時間は、
「軽く流す」ではなく
「新しい動きを取りにいくチャレンジの時間」です。
ウォーミングアップが本気で取り組めている子ほど、実走での変化も早い。これは、毎日現場で子どもたちを見ていて心から感じることです。
ティラノドリルには、必ず守ってほしい“絶対条件”があります。
それは「かかとを着かない・つま先接地で行うこと」です。
かかと着地になると、
・接地の衝撃が大きくなる
・ブレーキがかかる
・足が前に流れてしまう
・股関節の引き上げが弱くなる
といった状態が起こり、結果としてスピードが伸びません。
一方で、つま先接地が身につくと、
・接地時間が短くなる
・地面からの反発が返ってくる
・スピードに乗りやすくなる
・足が流れず、前に進む力に変わる
という“速い走りの条件”がそろってきます。
足を高く上げる目的は、ただフォームを“きれいに見せるため”ではありません。
狙いは、
・地面からの反発をより強く受け取るため
・大きなストライドと速いピッチの両立を目指すため
です。
低い足の高さでばかり練習していると、本番の走りもその高さ、もしくはそれ以下にしかなりません。緊張や疲労を考えると、本番では基本的に「練習より少し小さめの動き」になりやすいからです。だからこそ、練習中はあえてオーバーに、しっかり太ももを高く上げておく必要があります。オーバーに上げることで、本番ではちょうどよい高さ・ちょうどよい力感になります。
ティラノドリルでは、
・つま先接地
・足を高く上げる
・オーバーに動く
この3つを揃えることで、「地面からの反発をしっかりもらえる走り」の土台を作っています。
ここができると、スタートも、トップスピードも、すべてが変わり始めます。
指導を続ける中で、コーチが強く感じていることがあります。
それは、子どもたちには大きく2つのタイプがある、ということです。
タイプ①:かけっこ・陸上中心の子
・走ること自体が好き
・ドリルの目的を聞くと、素直に丁寧にやれる
・動きを“オーバーに”やる感覚を持ちやすい
タイプ②:複数スポーツ経験の子(野球・サッカー・バスケなど)
・運動神経が良く、動きの反応も早い
・アップを「流れでテンポよくやる」ことに慣れている
・ドリルも“テンポ重視”で、小さく速くこなしてしまいがち
タイプ②の子は、本当にポテンシャルが高いです。ところが、ここに落とし穴があります。
多くの球技スポーツでは、ウォーミングアップは
・全身を温める
・可動域を広げる
・リズムを合わせる
・いろいろな方向へのフットワークを入れる
といった目的が中心です。これはそれぞれの競技の中では素晴らしいアップ文化であり、決して否定されるものではありません。
ただ、“走りを専門的に伸ばす”となると話が少し変わります。
流れアップの感覚のままティラノドリルを行うと、
・足の位置が低いままになる
・接地が雑になりやすい
・つま先接地が甘くなる
・かかと着地につながりやすい
という状態になり、本当に欲しい「強い反発のもらえる走り」からは遠ざかってしまいます。
だからこそ、タイプ②の子ほど、
「オーバーに足を高く上げる」
「一つひとつの動きを誇張して行う」
という意識が大事です。
伸び悩みの原因は「才能」ではなく「アップの癖」。
ここまでの内容を、あらためて整理します。
・走力アップは、「ウォーミングアップの質」で決まる
・ジャンプ・障害物の練習は、関節ロックを作る
・ティラノドリルは、本メニューであり、伸びる子は例外なくここが上手い
・つま先接地と足を高く上げることが、強い反発を生む
・他のスポーツ中心の子は、流れアップの癖でドリルが小さくなりがち
・オーバーに動き、失敗と成功の幅を経験することで新しい動きが手に入る
結局のところ、速くなる子の共通点はただ一つです。
「ティラノドリルを丁寧に、オーバーに行う習慣がある」
これは才能でも、体格でも、特別な筋力でもありません。
毎回の練習の最初の10分をどう使うか、その“習慣”の違いです。
オーバーに動けば、必ず失敗も経験します。
でも、その失敗こそが「どの角度がいいのか」「どこまで足を上げると走りやすいのか」といった“微調整のヒント”になります。失敗を知らなければ、そもそも修正のしようがありません。だから現状維持のままになってしまうのです。
ドリルの意味をできるだけ分かりやすく伝えながら、子どもたちが「チャレンジしたくなる空気」をつくることを意識しています。かけっこや走り方の練習は、つらいものではなく、「新しい自分の動きを見つけていく楽しい時間」であってほしいと思っています。
今回の内容は、決して他のスポーツを否定するものではありません。むしろ、いろいろな競技を経験している子ほど、走り方を整えたときの伸び幅は本当に大きいです。
子どもたちがもっと楽しく、もっと速くなるために全力でサポートしていきます。
